転職活動で外資系企業を検討しているかたは、「外資系企業って突然クビになるのではないだろうか?」と懸念されているのではないでしょうか?
実は、外資系企業であっても日本で設立された法人であれば日本の法令が適用されるので違法な解雇はできません。
しかしながら、世間的には外資系企業ではすぐに解雇になるという印象が一般的です。
その印象で外資系企業への転職をためらってる方もいるのではないでしょうか?
そこで、この記事では、外資系企業で法務業務の経験者である筆者が、外資系企業の解雇にまつわる4つのポイントを解説します。
この記事を読み終えると、外資系企業での解雇の背景・予兆・実態とその対処法を理解したうえで外資系企業に応募できるようになります。
それでは、外資系企業の解雇(クビ)事情について解説していきます。
外資系企業で解雇(クビ)になりやすい背景
- 日本市場からの撤退
- 部門の閉鎖・移管
- 業績の悪化・事業環境の変化によるリストラ
- 本人の評価
- 退職勧奨による合意退職が一般的
解雇になりやすい背景① 日本市場からの撤退
外資系企業、特にグローバル企業にとって、日本の子会社の存在価値はいち地域の支店であることが多いです。
本国・他の地域で成功したビジネスモデルをもって日本に参入したものの、期待された成果が出ず日本市場から撤退することは珍しくありません。
最近では料理宅配サービスの「フードパンダ」や「DiDi Food」が日本上陸から数年という短期間で撤退しました。
外資系企業が日本から撤退する場合、事業を他の企業に売却したり、そのまま完全に閉鎖したりと、いくつか選択肢があります。
いずれの場合も従業員の雇用への影響は避けられません。
解雇になりやすい背景② 部門の閉鎖・移管
日本市場からの撤退とはいかなくとも、経営判断によって事業部門を売却・閉鎖することがあります。
また、外資系企業ではグローバル規模での経営の最適化を考えていますので、特定の業務をどこかの国・地域に集約するということもあります。
わたしが経験したケースですと、グローバル規模で経理部門の経費精算を担当するセクションを中国に集約することとなり、日本支社でその業務を担当していた人員は全員退職することになりました。
解雇になりやすい背景③ 業績の悪化・事業環境の変化によるリストラ
業績の悪化や事業環境の変化によるリストラは日系企業でもありますが、外資系企業の方がその判断と実行が速い傾向にあります。
経営資源を不採算事業から将来性のある事業に振り分けるためにリストラを実行します。
また、組織の若返りや新陳代謝や株主の経営陣に対する懸念を払拭することを目的としておこなう場合もあります。
外資系企業ではジョブ型採用を取り入れているため、別部署へのローテーションは基本的に実施されず、閉鎖される部門の人員は原則として退職勧奨の対象となります。
解雇になりやすい背景④ 本人の評価
外資系企業では各年度で自身の目標を細かく設定され、その達成度が定期的にチェックされます。
本人のパフォーマンスが目標に達していない状況が続くと、その役割を果たすにはスキル不足と判定され、退職を促されるケースがあります。
外資系企業が実力主義・成果主義と言われるゆえんですね。
解雇になりやすい背景⑤ 退職勧奨による合意退職が一般的
外資系企業であっても日本の法人である以上、法律に反した解雇は違法です。
それにもかかわらず外資系企業では解雇される印象が強いのはなぜでしょうか?
それは日系企業と比較して、退職勧奨から双方合意のうえで退職するケースが多いからです。
勤務先からは「会社としてあなたのポジションを用意・維持することはできなくなったので、退職してもらえませんか?」と打診されます。
その後、退職の条件等を協議して、最終的には退職合意書を締結して退職に至ります。
わたしは日系・外資系企業の両方で法務担当の経験がありますが、退職合意書の作成機会は外資系企業の方が圧倒的に多かったです。
実際、外資系企業の社員のなかでは、入社時から退職勧奨を受けるリスクを織り込んでいる人が多いのが事実。
また、わたしが実際に経験したケースですと、入社時に締結する労働契約書に「〇ヶ月分の給与を支払うことでいつでも労働契約を終了することができる」という条件が入っていたこともあります。
外資系企業で解雇(クビ)になる予兆とは?
- 海外本社の買収・合併
- 海外本社でリストラが開始される
- PIPが実施される
- 上司とのコミュニケーションが減る
- 新しい業務・プロジェクトへの参加機会が減る
- 新規採用が中断・凍結される
- 予算・経費が削減される
- 昇進の機会が減る
解雇の予兆を知ることができれば、早めに対策を講じることができ、万が一自分が対象になった場合に慌てなくてすみます。
解雇の予兆① 海外本社の買収・合併
日系企業でも最近は珍しくはないですが、外資系企業でM&Aが起こるケースは日系企業よりも圧倒的に多いです。
わたしはこれまで4社の外資系企業に勤務しましたが、すべての企業で買収・合併を経験しました。
買収・合併が実施されると、マネジメントも刷新され、組織や事業の見直しが行われます。
もし見直しの対象となる部門に在籍した場合は解雇や退職勧奨の対象となりえます。
解雇の予兆② 海外本社でリストラが開始される
外資系企業でグローバル規模のリストラが実施される場合、海外本社から開始されることが一般的です。
認知度の高い企業の場合は、報道などで「〇〇社がリストラで〇〇人削減」といった情報が出ることもあります。
また、経営陣からリストラに関する説明が全社会議や全社メールで実施されることもあります。
日本支社については、海外本社から少し遅れたタイミングか海外本社でのリストラが一段落してから実施されることになります。
従って海外本社でリストラが始まった場合、遅かれ早かれその波が日本にも来ることも考えられるでしょう。
解雇の予兆③ PIPが実施される
PIPとは「Performance Improvement Program」のことで、「業績改善計画」を意味します。
外資系企業は実力主義・成果主義と言われますが、社員のパフォーマンスは細かくチェックされます。
成果が達成できていない状態が続く社員には、このPIPが実施されます。
PIPの本来の目的は短期的な目標の達成やスキルの向上を図るものですが、会社からイエローカードを提示されたとも考えられます。
解雇の予兆④ 上司とのコミュニケーションが減る
上司とのコミュニケーションの質や量が低下した場合もリストラの予兆として注意が必要です。
これまで与えられていた業務の裁量が減ったり、何かと業務内容を書面やリストで残す様に指示があった場合も同様です。
また、上司が退職・異動等の理由で変わって、新しい上司との関係性が構築できていない場合も危険なサインです。
解雇の予兆⑤ 新しい業務・プロジェクトへの参加機会が減る
自分の担当業務の領域で、新しい業務やプロジェクトへの参加機会が減った場合も注意が必要です。
会社があなたに長期的なキャリア機会を提供できないと考えている可能性があるからです。
逆に言うと、どれだけ忙しくても、新しい業務やプロジェクトに積極的に参加することは生存戦略として重要だと言えます。
解雇の予兆⑥ 新規採用が中断・凍結される
増員、欠員補充(リプレイス)を問わず、これまで実施されてきた新規採用が中断されたり、凍結されたりする場合も注意が必要です。
特に欠員補充の採用さえ中断・凍結される場合は、リストラの可能性が高いと考えられます。
自社の採用活動も注視して、小さなサインを見逃さないことが重要です。
解雇の予兆⑦ 予算・経費が削減される
進行中や計画中のプロジェクトの予算が削減されたり、様々な経費の削減されはじめたときも要注意です。
具体的には、福利厚生のメニューが削減されたり、出張や広告の費用の承認がおりないといったことが挙げられます。
こういった経費削減施策が実行された後に、人員の削減に移行するケースがあります。
解雇の予兆⑧ 昇進の機会が減る
ある程度の規模の企業であれば、年1、2回程度の頻度で昇進の機会があります。
例えば、例年は昇進の発表時期に10名程度昇進する社員がいるのに、今年はゼロだったというケースがあったとします。
その場合、会社側が人員のリストラを準備している可能性があります。
または水面下で他の企業による買収の計画が進んでいる可能性もあります。
外資系企業で退職勧奨を受けたときの対処法
- 可能であればミーティングを延期する
- 記録を取る
- その場では回答しない
- パッケージの相場を知る
- 弁護士に相談する
- 転職活動をすぐに開始する
対処法① 可能であればミーティングを延期する
退職勧奨はある日突然(会議の趣旨を伝えられずに)上司に会議室に呼ばれて提示されることがあります。
何も準備をしていない状態で用意周到な会社側と対峙するのは危険です。
その場の感情で冷静な対応ができないこともあり得ます。
もし、何か不穏な兆候を感じたら、どんな理由を付けてでも後日に延期してもらい、可能な限りの準備をするための時間を稼ぎましょう。
対処法② 記録を取る
通常、退職勧奨は人事・法務部門から法律に抵触しない形で実施する様、指示や研修があるものです。
しかしながら、場合によっては海外本社からの強いプレッシャーにより、強引かつ違法な形で実施される可能性もあります。
その後の交渉や弁護士への相談のためにも、メモ、録音等、とにかく可能な限り記録を取ることが重要です。
対処法③ その場では回答しない
会社側はそれまでに周到に退職勧奨の準備をしていた一方、退職勧奨を受けた社員側にとっては、不意打ちであることが多いでしょう。
退職勧奨の経緯書や退職合意書を提示されることもあります。
その場では何も回答せずに持ち帰って内容を確認することを告げて立ち去ることをおススメします。
会社側はFAQまで準備してその会議を設定しています。
まずはこちら側が情報不足であるその圧倒的に不利な場から立ち去ることを優先しましょう。
対処法④ パッケージの相場を知る
会社側が社員に対して退職勧奨から合意退職を求める場合、通常はパッケージと言われる「特別退職金」を提示します。
提示されなかった場合は、こちらから退職に合意する条件として提示することになります。
わたしがこれまで関わった事例では、パッケージの相場は、企業や役職等によって月給の3か月分から2年分と結構幅があります。
数年以上在籍しているマネージャー職の社員については月給の6か月分というケースが多かったです。
また、経営陣レベルに見られたものですが、パッケージという形ではなく、コンサルタントやアドバイザーとしてしばらく雇用(フルタイムの勤務は求められない)を継続するケースもありました。
パッケージの金額はもちろん多い方が良いのですが、引き換えに同業他社への転職を禁止する条件を課される場合があります。
同業他社への転職機会が失われることの方がリスクが高いとも考えられるので、この辺りのバランスは自分の事情に応じて考慮する必要があります。
また、退職日(いつまで雇用してもらえるか)や有休消化なども交渉するうえで重要な項目になります。
今後の転職活動を考えた場合、まだまだ日系企業はキャリアの空白期間をネガティブに考える傾向が強いのが実情です。
従って、目先の特別退職金よりも雇用期間を調整を依頼して転職活動の時間を確保するのも選択肢のひとつになります。
対処法⑤ 弁護士に相談する
わたしもそうですが、外資系企業に勤務しているビジネスパーソンは、解雇されるリスクを織り込んで勤務している人が多いです。
従って、納得できるパッケージが提示されたら、気持ちを切り替えて次の機会を探す準備・作業に時間とエネルギーを使う方が合理的と考えます。
しかしながら、場合によっては違法な退職勧奨や相場より低いパッケージを提示されることもあるでしょう。
また、弁護士費用をかけてでも、その職場に何とか残れないものかチャレンジしたいと考える方もいらっしゃると思います。
その場合は労務関係に強い弁護士に相談することも選択肢になります。
弁護士に相談する場合は、なるべく早い段階に、なるべく多くの記録を残しておくことが重要になります。
対処法⑥ 転職活動をすぐに開始する
退職勧奨を受けたら、応じる、応じないにかかわらず、すみやかに転職活動を開始されることをおススメします。
理由は、次の3つです。
- 退職勧奨をくつがえしても、その会社でその後活躍できる可能性は低い。
- 次の転職先を決めるには応募から入社まで最短でも2、3か月はかかる。
- 明日にでも自分に合った求人が出るかもしれない。
まずは自分の職務経歴書をアップデートして、複数の転職エージェントにコンタクトしましょう。
退職勧奨を受けながら転職活動をするのはエネルギーがいりますが、退職後の空白期間が長くなると、転職活動へのモチベーションも低下するリスクがあります。
また、面接を実施してくれる企業があることで、次の機会に対してポジティブに考えられるようになるかもしれません。
外資系企業の採用プロセスではリファレンスチェックを実施している企業もあります。
転職活動の開始とともに推薦人の選択と依頼も進めておきましょう。
筆者おすすめの転職エージェント
実際にわたしが登録して応募・面接のサポート、オファーの条件交渉などを行っていただいたエージェントになります。
個人的な実績ですが、ここに紹介する転職エージェントから応募した案件の選考結果の回収率は高かったです。
それぞれ別の記事でも詳しく解説していますので、よかったらあわせてご覧ください。
ロバート・ウォルターズ
ロバート・ウォルターズはロンドンに本拠地を構える外資系・グローバル企業特化型エージェントです。
わたしは5年以上登録しておりますが、ここ数年はわたしのお付き合いのある転職エージェントの中で一番多くの案件をご紹介いただいています。
わたしが実感しているロバート・ウォルターズのメリットは以下の5つです。
- 外資系の案件が豊富
- 他の外資系特化型エージェントと比較してキャリアコンサルタントの質が高い
- 優良・高収入の案件が多い
- ミドル・シニア層の案件も比較的多い
- 実務経験があればTOEICのスコアを問われない
外資系企業を選択肢に入れている方は登録必須の転職エージェントと言えると思います。
エンワールド・ジャパン
エンワールドも外資系・グローバル企業特化型エージェントで、わたしは登録して10年以上になります。入社後の活躍までサポートすることをアピールしており、わたしも実際に入社後にトラブルを解決していただいたことがあります。
わたしが実感しているエンワールドのメリットは以下の5つです。
- 外資系・グローバル企業の案件に特化
- 転職後のフォロー体制が充実
- 他の外資系特化型エージェントと比較してキャリアコンサルタントの質が高い
- 優良・高収入の案件が多い
- ミドル・シニア層の案件も比較的多い
それでもなぜ外資系企業で働くのか?
ここまで外資系企業の解雇(クビ)事情について、説明しました。
それではなぜ一定数のビジネスパーソンは、この様なリスクを知りつつ外資系企業で働くのでしょうか?
- 日系企業よりも待遇が良い
- 社風(カルチャー)が自分に合っている
- 専門家としてのキャリアを歩める
- グローバル企業の経営を学ぶことができる
- 転職回数や年齢に寛容
これら5つの理由を順番に説明していきます。
外資系企業で働く理由① 日系企業よりも待遇が良い
同業種・同職種・同役職で日系企業と外資系企業の待遇を比較した場合、外資系企業の方が良い待遇が期待できます。
その高待遇のメリットを享受しつつ、解雇になるリスクも織り込んでいるのです。
外資系企業で働く理由② 社風(カルチャー)が自分に合っている
各企業によってカルチャーは違うものの、おおむね外資系企業では成果さえ出していれば他の事はあまり求められません。
業務時間外でのお付き合いも控え目で、有休の取得などプライベートも尊重される傾向にあります。
また、実力主義のため、社歴、年齢、人種、性別などによる差別や不利益もありません。
わたしも外資系企業から日系企業に転職したことがありますが、同調圧力やヒエラルキーに息苦しさを感じて、次の転職では外資系企業に戻りました。
外資系企業で働く理由③ 専門家としてのキャリアを歩める
日系企業ではまだメンバーシップ型の雇用が主流で、一部の専門職を除いて自分の専門性を極めるのは難しい環境にあります。
数年ある業務を経験したら転勤や異動で別の業務を担当することになるからです。
外資系企業はその人のスキルを買って採用するので、まず専門外の担当部門に異動させられることはありません。
自分が極めたい専門領域がある人にとっては良い環境と言えます。
外資系企業で働く理由④ グローバル企業の経営を学ぶことができる
グローバル企業の経営やビジネスモデルを学ぶために外資系企業で勤務するメリットは大きいです。
GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)企業の日本オフィスには多くの優秀な人材が日系企業から転職しています。
企業によっては海外本社のポジションを狙える制度があることも大きなメリットです。
外資系企業で働く理由⑤ 転職回数や年齢に寛容
外資系企業は応募者のスキル、実績、カルチャーフィットの観点から採用するかどうかを判断します。
従って、日系企業の採用でしばしば懸念材料となる転職回数や年齢にも寛容です。
年齢については、英文のレジュメには記載しませんので、採用企業も入社するまで知りません。
また、そもそも採用企業である外資系企業が退職勧奨をおこなっていることから、キャリアの空白期間がある人にも寛容です。
従って、日系企業への応募で、転職回数や年齢で門前払いになっている人でも、スキルと実績が見合っていれば外資系企業では検討してもらえます。
実際はわたしは40代から50代で5社経験していますが、そのうち4社が外資系企業になります。
また、外資系企業の特徴として、出戻り転職にも寛容であることも挙げられます。
外資系企業は突然解雇(クビ)になる?:まとめ
以上、この記事では外資系企業の解雇(クビ)事情について以下の4点を解説しました。
- 外資系企業で解雇(クビ)になりやすい背景
- 解雇(クビ)になる予兆を知る方法
- 退職勧奨を受けたときの対処法
- それでもなぜ外資系企業で働くのか?
外資系企業にも日本の法律が適用されるので、違法な解雇は認められません。
しかしながら会社から退職勧奨を受けて、双方が合意した条件で退職するケースは日系企業よりも多いのが実態です。
なぜその様な環境でも多くのビジネスパーソンが外資系企業で仕事をしているかというと、自分のキャリアプランを常に考え、今いる場所で成果を出しながら次の機会に備えているからです。
そのため、いま転職することを積極的に考えていなくても、常に転職エージェントとの連絡や求人のチェックを絶やさない様にしています。
外資系企業には確かにリスクはありますが、様々なメリットもあります。一方で、日系企業もこれまでの終身雇用制度をいつまで維持できるかわかりません。
最後まで読んで下さりありがとうございました。少しでも転職活動に悩む方の参考になれば幸いです。